どろぼうの神さま
どんなにお金に困っても、これだけは売れない、と、
手元に置いておいた本が3冊だけある。
ドイツのファンタジー小説作家のコルネーリア・フンケさんの本だ。
全て高校生1年生の時に読んだ。
「魔法の声」は超大作で、続編の「魔法の文字」という作品もあるが、読んだ後どこかに紛失してしまったのか、実家にもなかった。
とくにわたしが1番好きだったのは「どろぼうの神さま」という作品だ。
物語の舞台は水の都ヴェネツィア。
オトナの探偵と、小さな子どものどろぼうのお話。
わたしが人生で初めて読んだ本は、「モモ」だった。
その時以来の感動だったように記憶している。
なかなか読み返すということはしないけれど、あのように物語と、その物語に出てくる街や登場人物がありありと浮かぶという体験はそうないように思う。
この作品の影響で、ヴェネツィアはわたしの憧れの街だ。
いつも何かに心を奪われて
見えない何かを恋しがり
空想するのが好きだった。
いつの間にか
世の中や自分の全てを見透かしたような
絶望のフィルターを通してでしか物事を捉えられなくなった。
わたしはわたしのこの染み付いた思考回路がとても嫌いである。
枕元に、大好きな本を置いて、夢の中で物語の中に入れますように、と、ワクワクしながら眠るのが好きだった。
明日はきっと、いい日になる。